就職しても演奏を続けるために 企業吹奏楽団という選択肢

大会シーズンも終盤を迎え、学生プレーヤーはそろそろ今後について考えている頃だろうか。学生プレーヤーの一般的な「進路」は、一般団体に加入して活動を継続するか、引退(卒業)と同時に辞めるかがほとんど。もし一般楽団に進んだとしても、進学や就職などのタイミングで多くのプレーヤーが辞めてしまう。

しかし、演奏活動を続ける道はそれだけではない。今回はマーチングとは少し異なるが、働きながら演奏家として生きる選択肢として企業吹奏楽団を紹介したい。

協力してくれたのは、ヤマハ吹奏楽団と、JFEスチール㈱東日本製鉄所千葉音楽部吹奏楽団だ。両団体の活動の一つである「第92回都市対抗野球大会」での応援活動の様子などを取材し、写真と共にお届けする。

都市対抗野球大会について

都市対抗野球大会を主催する日本野球連盟(JABA)の公認サポーター「社会人野球盛り上げ隊」メンバーの沓掛祥和(くつかけ・よしかず)さんにお話を伺った。沓掛さんはトヨタ自動車硬式野球部OBで、都市対抗をはじめ社会人野球の多くの大会で活躍した元選手だ。

「都市対抗野球大会は、日本各地の予選を勝ち抜いた社会人野球チームが頂点の座をかけて戦う全国大会です。負けたら終わりのトーナメント方式で、地元と企業を背負って大人が本気で戦うので、『大人の甲子園』といった感じで非常に盛り上がります。応援団とブラスバンドは見どころの一つですね。都市対抗では野球はもちろん、応援も『大人の本気』を楽しめるんです」

(左から二番目が沓掛さん。元社会人野球選手たちで結成した「社会人野球盛り上げ隊」のメンバーと)

「現役時代、2019年の決勝戦でJFE東日本(以下、JFE東)と対戦したのですが、その時のJFE東の応援は忘れられません。私はファースト守備についていましたが、攻撃側のJFE東の応援歌『ポパイ』が東京ドーム中に鳴り響いて、スタンドの応援の一体感に敵ながら感心してしまったほどです。もちろん、トヨタの応援団にもたくさん勇気をもらいました。チャンステーマの『千本桜』を聞くと奮い立ちましたね」

選手に勇気を与え、観客を沸かせる企業吹奏楽団。一体どんな人達が集まっているのだろうか? 野球応援の他にはどんな活動を行っているのか? 直接聞いてみました。

企業吹奏楽団ってどんな団体? 普段は何をしているの?

ヤマハ吹奏楽団

団体所在地:静岡県浜松市中区
創設について:1961(昭和36)年にヤマハ野球部の応援のため社内で管楽器経験者を募り、30名程でヤマハブラスバンドを結成。1964年に改称し、ヤマハ吹奏楽団を発足。吹奏楽を通じて地域社会や音楽文化の発展へ貢献することを理念とし、楽器製作に携わりながら、質の高い演奏でお客様に愛される「匠のバンド」を目指し演奏活動を継続。2020年には創立60年を迎えた。

楽器編成:金管、木管、打楽器、弦楽器(コントラバス)、その他(ピアノなど)使用するのはもちろん全てヤマハ製楽器で、自らが設計・製造した楽器を使用しているメンバーもいるそうだ。野球応援時はマーチングブラス(メロフォン)やスーザフォンに持ち替えている。

活動内容:吹奏楽コンクールやアンサンブルコンテストの大会参加のほか、定期演奏会などの自主公演、野球応援、社内行事(野球応援以外、社内コンサート)、地域イベント、その他(東京や大阪など大都市圏での公演、CDリリース、海外公演)等がある。練習は原則週2~3回で、年間約120日程度。終業後に本社敷地内の専用練習場で練習に励んでいる。

メンバーについて:現在は67名が所属し、年齢も19歳から57歳まで幅広い(平均年齢は32歳)。メンバーの多くは楽器製造を行いながらヤマハ吹奏楽団で演奏する生産関連職として入社し、オーディションにより全国から集まっている。

「2020年は創立60年ということで国内外での公演を予定しておりましたが、実現することができず、苦しい一年となりました。現在は練習場の換気工事を行い、会社の理解の下、安心して練習できる環境を整備してもらいました。野球応援は球場という広い空間で演奏が出来ることと、観客との一体感がたまらないですね」

JFEスチール㈱東日本製鉄所千葉音楽部吹奏楽団

団体所在地:千葉県千葉市中央区
創設について:川崎製鉄千葉製鉄所音楽部吹奏楽団として発足し、活動を開始。1966(昭和41)年に初めて吹奏楽コンクールに出場。1979(昭和53)年には初の全国大会出場を果たす。都市対抗野球大会の応援団コンクールで最優秀賞を幾度も受賞しており、社会人野球ファンからの知名度も高い。

楽器編成:金管、木管、打楽器、弦楽器(コントラバス)、その他

活動内容:地域活動を中心に、地元中学校との合同演奏や、定期演奏会などの自主公演、野球応援での演奏などが主な活動となっている。現在は吹奏楽コンクールなどのコンテストには出場していない。練習は基本的に演奏本番に向けて都度スケジューリングする形で組まれ、企業敷地内の練習場にて行っている。

メンバーについて:現在は38名が所属し、22歳から71歳までが所属(平均年齢は40代)。メンバーはJFEスチール社員ならびに関連企業社員で、全員が楽器経験者である。千葉という土地柄、習志野高校や市立柏高校吹奏楽部など地元強豪校出身者も多数在籍している。

「野球応援の醍醐味は、東京ドーム全体を震わせるような観客との一体感です。『応援で1点取る!』という気持ちで演奏しています。応援に参加をするための業務の調整は大変ですが、試合中は苦を感じません。勝ったときのよろこびはひとしおですね」

「大人になっても本気で吹きたい」そんな学生プレーヤーの進路の一つに

コンテストバンドが大会に挑むとき、多くの場合、演奏する理由は自分たちの中にある。しかし、社会人吹奏楽団の野球応援はチームの勝利のために演奏する。自分たちの演奏が後押しとなって選手が活躍する瞬間を体感すれば、コンテストバンドでは得られなかった演奏の喜びを見つけられるだろう。

「社会人になっても演奏を続けたいけど、一般団体は大変そうだな」と思っている学生プレーヤーの方は、吹奏楽団のある企業などを目指してみてはどうだろうか。中でもヤマハやJFEのように野球応援を行っている楽団であれば、大人になっても本気で吹いて本気で喜び合える機会が待っている。実際の演奏活動の様子などは、演奏会や社会人野球の試合などで見ることができるので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 

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