【マーチングバンド解体新書】創部70周年を迎えさらなる未来へ向かう「関東学院マーチングバンド」

「知ってるようで知らないマーチングバンド、ドラムコーの現状」を団体関係者に直接インタビューし、正しい情報を広く詳しく発信する【マーチングバンド解体新書】シリーズ。

今回紹介するのは、マーチングファンならお馴染みの『関東学院マーチングバンド』だ。日本で最初のマーチングバンドとして活動を始め、長きにわたり日本のマーチング界に大きな影響を与え続けている。活動内容や部の様子について、顧問の上杉雄一(うえすぎ・ゆういち)さんからお話を伺った。

マーチングバンド解体新書 過去記事はこちら

 

関東学院マーチングバンドについて

団体正式名称:関東学院マーチングバンド(カントウガクインマーチングバンド)
団体所在地:神奈川県横浜市
創設年:1952(昭和27)年
団体の編成:ブラス(※1)、パーカッション、カラーガード
※1 編成詳細は以下の通り
木管:Sax(Sop、Alto、Tenor、Bariton)
金管:Tp、Mello、Tb、Bari、Euph、Tuba
活動理念:人になれ 奉仕せよ

関東学院中学高等学校は創立104年の歴史ある共学の中高一貫校で、マーチングバンド部は2022(令和4)年度に設立70周年を迎えた「日本最古の歴史を持つ学生マーチングバンド」である。

マーチングバンド部の源流である吹奏楽部は、第二次世界大戦終戦から10年も経たない1952(昭和27)年に発足。1963(昭和38)年には日本初のドラム編成のマーチングバンドとしての活動を開始し、その後バトントワラー編成が加わる。翌1964(昭和39)年にビューグル隊(ノーピストン)が加わり、国内で最も早く現代のマーチングバンドスタイルを確立した。その華やかで迫力ある演奏演技は大きな話題となり、昭和から現代に至るまで、各種イベントやテレビ番組などに多数出演している。

大会には1967(昭和42)年に開催された『第1回パレードバンドフェスティバル(※1)』から出場しており、1977(昭和52)年6月に開催された『第3回全国高校コンテスト(※2)』にてその年から創設されたグランプリを獲得し、翌 1978(昭和53)年6月の『第4回全国高校コンテスト(※2)』でも2年連続グランプリを獲得している。なお、2002(平成14)年1月の『第29回マーチングバンド・バトントワリング全国大会(※3)』と翌2003(平成15)年1月の『第30回マーチングバンド・バトントワリング全国大会(※3)』でも同様に2年連続グランプリを獲得している。

※1と※3は大会名称が異なるが、いずれも現・マーチングバンド全国大会(日本マーチングバンド協会主催)の前身となる大会である
※2の『全国高校コンテスト』について、下記の2年度のみ『マーチングバンド全国大会』とは別開催で高校の全国大会が行われており、関東学院マーチングバンドはいずれの大会にも出場している
■1977(昭和52)年度
 第5回マーチングバンド全国大会:1978年(昭和53)年2月5日 東京都体育館
 第3回全国高校コンテスト:1977(昭和52)年6月12日 横浜文化体育館
■1978(昭和53)年度
 第6回マーチングバンド全国大会:1979(昭和54)年2月12日 横浜文化体育館
 第4回全国高校コンテスト:1978(昭和53)年6月25日 横浜文化体育館
なお、1979(昭和54)年度の第7回マーチングバンド全国大会から同時開催に戻り(大会の開催数については2つずれたまま)、1997(平成9)年度の第25回全国大会より「高校コンテスト」の名称は無くなり、現大会名に統一された

 

他の団体にはない「関東学院ならでは」なエピソード

発足から70年以上の歴史ある団体ならではのエピソードなのだが、関東学院には世代を超えてマーチングバンド部で活動している家庭が多くあるそうだ。

上杉:「卒業生の子どもが時を経てマーチングバンド部に所属しているというのは珍しくありません。また、きょうだいで所属しているご家庭も多く、以前は三人きょうだいの三人ともが揃って活動していたこともありました」

 

関係者が答えます!活動状況Q&A

1.練習について

Q.全体練習の頻度はどれくらい?
A.週5日 ※隔週で週4日

上杉:「原則として火曜と日曜が休みで、それらを除く月・水・木・金・土曜に練習を行っています。土曜は授業があるため半日程度の活動です。また火・日曜以外にも隔週で平日にオフ日があります」

Q.練習場所はどんな場所?
A.屋内

上杉:「(屋内は)校内にあるグレセット礼拝堂、音楽室、教室などを使用しています。ドリルは屋外の中庭や、場合によっては外部の体育館を使用します」

 

2.メンバーについて

Q.所属メンバーの居住地について
A.団体所在地「内」の都道府県から通っているメンバーが多い

上杉:「ほぼ横浜市民です。ざっとですが90%くらいじゃないでしょうか? それ以外の地域からは、横浜以外の神奈川県内の市区町村、東京、埼玉から通う生徒がいます」

Q.現在所属しているメンバーは何名いますか?
A.93名(2022年度)

上杉:「2022年度は中学生が40名程度で、高校生50名以上でした。男女比は女子が多く、男子35%:女子65%という感じです」

 

3.実際に加入するためには

Q.加入に際してオーディションを行っていますか?
A.行わない(未経験も可)

関東学院は現在高校からの編入は行っておらず、新入部員はすべて中学生となる。神奈川県は全国有数の小学校バンドの活発な地域なので経験者の入部も多いのかと思ったが、「小学校でマーチング経験のある新中1生が入ることは決して多くなく、初心者からスタートして冬の全国大会の舞台に立つメンバーがほとんど」とのこと。

上杉:「中学受験というハードルはありますが、小学校でのマーチング経験者も在籍しています。興味がある小学生の見学や体験、先輩による体験談のアドバイスなどいつでもお受けしています」

Q.一年間でメンバーが団体に支払う費用は概算でどれくらい?
A.26~30万円

上杉:「活動費が年額12万円(1万円✕12ヶ月)、電池やテープなど主に消耗品費に充てる部費が年額7千2百円(600円✕12ヶ月)、楽器基金(※1)が年額2万円、保護者会費(※2)が年額2万円です。カラーガードとパーカッションは別途で年額1万円ずつ発生する代わりに、カラーガードの衣装代やパーカッションのスティック代は無償です。その他、夏合宿(5泊6日)及び関東大会以降の遠征費用(1泊2日)などは別途発生します。なお、楽器や衣装は無償貸与です」

上杉先生は「正直、他の学校の部活動よりも金額は高いと思う」としながら、「保護者の方々には決して安くはない費用が発生することを明示した上で、各セクションに複数名の指導者を配置し、シーズン序盤~夏合宿、及び長期休み中の集中練習、大会シーズン、演奏会シーズンと年間を通して日本を代表する専門指導者の指導を仰ぐことができるため『習い事の月謝という認識でいてもらえれば』と説明している」と話した。なお、多額の金銭が動くため毎年会計担当(引継含め2年の任期)を委託しており、保護者会総会にて毎年会計監査報告を行っている。

※1 楽器基金は、「高額な楽器が必要になった際の購入費用のため」に世代を超えて積み立てている。在籍中に使用することがなくても、卒業後に自分たちの積み立てた資金で後輩たちが新しい楽器を購入することができ、結果として部に還元される。
※2 保護者会費は、部活の運営資金とは異なり、保護者会の判断で使用用途を決めることができる(例:合宿や外部体育館の夜間練習時の軽食代など)

Q.その他、活動に際し必要な条件はありますか?
A.初年度はまず1年間続けること

 

コロナ禍での活動について聞いてみました

Q.【コロナ1年目】2020年度の活動はどのように行いましたか?
A.練習を行い、大会にも参加した(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)

上杉:「大会にはビデオ審査での参加になりました。定期演奏会は開催できず、地元テレビ局であるテレビ神奈川(TVK)協力のもと、自主制作ドキュメンタリー定期演奏会として『~Step Go On〜もう一つの卒業式』を放映しました」

Q.【コロナ2年目】2021年度の活動はどのように行いましたか?
A.練習を行い、大会にも参加した(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)

Q.【コロナ3年目】2022年度の活動はどのように行いましたか?
A.練習を行い、大会にも参加した(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)

Q.コロナ禍で困っていることは何ですか?
A.
・練習場所が確保できない
・コロナ対策に費用が掛かる
・スケジュールが立てられない(練習予定、大会参加など)
・人前で演奏演技を披露する機会が減った、またはなくなった(大会を含む)

Q.コロナ禍で活動する意味をどのように考えていますか?
A.
上杉:「中高生にとっての一年は濃密で、同じ月日とは思えないほどの成長を遂げます。部活のみならず学校生活を通して育む他者との距離感や、一緒に歩んだ時間が生んでいるのだと思っています。感染対策などのルールを設けることは必要だと思いますが、立場や環境はそれぞれ違うため、一括りに活動を制限する事が正しいのか葛藤を繰り返していました。完璧は難しいかもしれませんが、関係者と生徒が全力で対策を施し……『同じ場所で同じ時間を共有する』にこだわった結果がコロナ禍での活動でした」

しかし、2020年3月に開催される予定だった定期演奏会は、当時の感染症拡大の状況を鑑みて中止せざるを得なかった。それから3年の時を経て、2023年3月23日(木)に行われた「創部70周年記念 関東学院マーチングバンド 第65回定期演奏会」では、コロナ禍のため定期演奏会を行えなかった当時の高3生のため、『Alive ―Life goes on―(2019年度大会ショー、66期卒業生高3在籍時全国大会出場演目)』がプログラムに取り入れられた。「定期演奏会のステージを最後に卒業したかった」という声を汲んでのことだった。当時のドラムメジャーが指揮台に上がり、全国大会の映像をスクリーンに上映しながら行われた演奏演技は、まるで当時の仲間達と共にいるように感じられ、感涙必須の素晴らしいものだった。

横浜という土地は古くからの国際都市として異文化を柔軟に受け入れ、関東大震災や横浜大空襲などの被害に遭えども屈せず、進化し颯爽と生き抜いてきた。関東学院マーチングバンドも日本で最初の学生マーチングバンドとして活動を始め、幾多の苦難や泥臭い経験を乗り越えながら、大会ではいつでも涼しい顔で最先端のショーを披露している。その姿はまるで横浜という土地を象徴するようなバンドのように感じられた。

他校にはない長い歴史に加え、多くの卒業生たちが育んできた伝統とともに、これからもマーチング界の未来を切り拓く活躍を期待したい。

関東学院マーチングバンド

▶︎Website

▶︎Twitter

▶︎Instagram

▶︎Youtube

keyboard_arrow_up

Pearl