「知ってるようで知らないマーチングバンド、ドラムコーの現状」を団体関係者に直接インタビューし、正しい情報を広く詳しく発信する【マーチングバンド解体新書】シリーズ。
今回紹介するのは、高校マーチングファンならおなじみの『福岡大学附属大濠高等学校吹奏楽部』。吹奏楽部で長年顧問を務める浦川義信(うらかわ・よしのぶ)先生にお話を伺った。全日本吹奏楽連盟と日本マーチングバンド協会の「二刀流」活動状況を、写真と情報盛りだくさんでお届けしたい。
団体正式名称:福岡大学附属大濠高等学校吹奏楽部(フクオカダイガクフゾク オオホリコウトウガッコウ スイソウガクブ)
団体所在地:福岡県福岡市中央区
創設年:1958年
団体の編成:ブラス(金管+木管)、バッテリー、フロントピット、カラーガード
活動理念:一SHOW懸命(いっしょうけんめい)
福岡大学附属大濠高等学校は1948年に創設された私立高校。元々は男子校で、2012年から共学化された。1958年に音楽部(合唱部)内で吹奏楽活動が始まり、1970年に吹奏楽部が独立したという。
浦川:「それまでも『マーチングっぽいこと』はやっていたんですが、そこまで本格的ではありませんでした。1990年の福岡国体で県内の3校と合同でマーチング演奏を行ったことをきっかけに、本格的なマーチングバンド活動を始めました。吹奏楽連盟(以下、吹連)の大会とマーチング協会(以下、M協)両方の大会にエントリーしており、編成は金管(トランペット、ホルンまたはメロフォン、トロンボーン、ユーフォニウム、チューバ)、木管(クラリネット、フルート、ピッコロ、サックス)とパーカッション、カラーガードです。マーチング活動時、金管はフロントベルのものを使用し、木管はそのままで行っています」
大濠高校は文武両道の精神を掲げ、44もの部活動が存在している。特に有名なのは硬式野球部と男子バスケットボール部で、全国大会にたびたび出場し、多数のプロ選手を輩出している。
大濠吹奏楽部が吹連・マーチングコンテスト(通称:パレコン)で披露している『熱闘甲子園シリーズ』は、こうした学校の特色から生み出されたものだ。ちなみに2021年も『熱闘甲子園3』として演奏された。
1.練習について
Q.全体練習の頻度はどれくらい?
A.時期により異なる
浦川:「1~2月は入試もあるので休み多め、夏は例年なら平日は毎日練習で土日どちらかが休みです」
Q.練習場所はどんな場所?
A.屋内
浦川:「吹奏楽の練習は屋内で行っていますが、マーチングの動きの練習は公園や外部の体育館を使用することが多いです。学校にも体育館はありますが、本校は部活動が盛んなため、なかなか使用できないんですよ(苦笑)」
2.メンバーについて
Q.現在所属しているメンバーは何名いますか?
A.91~100名
浦川:「元々は男子校でしたが、共学化以降は徐々に女子部員が増えました。2021年は96名が在籍しており、男子26名・女子70名という内訳です。カラーガードは18名いますが、男子1名に女子17名です」
Q.新規加入者は例年何名くらいいますか?
A.30~40名
Q.退団者(シーズン途中を含む)は例年何名くらいいますか?
A.~10名
3.実際に加入するためには
Q.加入に際しオーディションを行っていますか?
A.行わない(未経験も可)
Q.一年間でメンバーが団体に支払う費用は概算でどれくらい?
A.11~15万円
Q.その他、活動に際し必要な条件はありますか?
A.特になし
未経験者OKで加入に際して特別な条件もないが、年間通じて非常に多忙である。以下は浦川先生のお話をもとに作成した年間スケジュール(例)である。
大濠吹奏楽部の年間スケジュール(例)
4月:福岡ブラスステーション
5月:パレード、マーチング演奏(博多どんたく、ハウステンボス)
6月:吹連・全日本マーチングコンテスト福岡県大会
7月:吹連・吹奏楽コンクール、高校総合文化祭
8月:定期演奏会
▶定演を以て高3は離脱(一部は引退)。例年お盆以降にM協用ショーメンバーが概ね決定する
9月:M協・福岡県大会
▶指定校推薦など進路の決まった高3がメンバーに復帰し、M協用ショー練習へ
10月:吹連・全日本マーチングコンテスト九州支部大会
11月:高校総合文化祭県大会、M協・九州大会
12月:M協・全国大会
1月:M協・マーチングステージ九州大会
※年度により異なるが、例年の流れを参考に作成
なお、2021年は吹奏楽コンクール本番翌日に和歌山県へ移動し、その日のうちに高校総合文化祭でパレード演奏を行っている。
M協大会用のショーは例年9月下旬から本格的な練習が始まるとのことで「短期集中で一気に仕上げている」そうだが、それでいて全国大会常連という実績を残している。その前後にマーチングコンテスト(通称・パレコン)もあるが、6月の県大会が終わると10月の九州支部大会直前までほとんど練習せず、大会前の一週間程度で「一度やった演目なので、思い出して仕上げている」そうだ。このような感じで、例年1シーズンで大体20~30曲ほどは演奏するという。
浦川先生によると、この超過密スケジュールはスタッフと部員両方の努力によって成立しているという。
浦川:「スタッフはほとんどOB・OGなので年間スケジュールを把握しており、中にはDCI(Drum Corps International)経験者やM協の指導員もいるので安心して任せられます。大変だと思いますが、愛校精神が強く献身的にサポートしてくれています。部員たちはスケジュールを逆算して『いつまでに何をしなくてはいけないか』を自分たちで考えて取り組んでいます。自主自立ですね。練習時間が長くても嫌な顔をせず、自分たちの目標である『さいたまスーパーアリーナ(M協全国大会会場)』を目指して気持ちを強く持って活動してくれていますよ」
Q.2020年はどのような活動を行いましたか?
A.可能な限り練習して開催された大会に参加した
浦川:「昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で5月半ばまで学校が休みだったので、部活動も休止していました。それでも一年生がたくさん入部してくれてありがたかったですね。今年も練習は一日2時間など、感染拡大状況に応じて制限が設けられています」
Q.2021年度の活動はどのように行う予定ですか?
A.練習を行い、大会にも参加予定(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)
Q.2020年度の大会参加状況について教えて下さい
A.予定どおり出場した
Q.2021年度の大会参加予定について教えて下さい
A.可能な限り参加予定
Q.コロナ禍で困っていることは何ですか?
A.練習場所の確保、メンバーのモチベーション維持
Q.コロナ禍で活動する意味をどのように考えていますか?
A.インターネットを活用するなど、発表形式の幅が広がった。練習時間が限られるので、練習内容を効率化することを考えるようになった。
大濠吹奏楽部は、パレコンでは先述の『熱闘甲子園シリーズ』のほか『大濠ふしぎ発見!』や『大濠警視庁24時』『卒業』など個性的な演目で楽しませてくれる一方で、M協の大会では約10分間の中にシリアスだったりドラマティックだったりといったショーを披露し、これまでにたくさんの観客を魅了してきた。その背後にこのような超過密スケジュールがあったとは驚きだ。吹奏楽の「二刀流」として、大濠吹奏楽部の今後の活動にも注目していきたい。
「福岡大学附属大濠高等学校吹奏楽部」
▶︎Website