「知ってるようで知らないマーチングバンド、ドラムコーの現状」を団体関係者に直接インタビューし、正しい情報を広く詳しく発信する【マーチングバンド解体新書】シリーズ。
これまで、当連載では中学校〜一般団体を多く扱ってきたが、今回紹介するのは『横浜市立小坪小学校金管バンド BLUE ROBINS』だ。日本の吹奏楽・マーチングバンドは非常にレベルが高いが、中でもマーチングバンドの小学生部門は別格で、世界的にも他に類を見ないほどのクオリティを誇っている。児童たちは普段どのように練習に取り組んでいるのだろうか? 顧問の鈴木宏典(すずき・ひろのり)先生からお話を伺った。
団体正式名称:横浜市立小坪小学校金管バンド BLUE ROBINS(ヨコハマシリツ コツボショウガッコウ キンカンバンド ブルーロビンズ)
団体所在地:神奈川県横浜市港南区
創設年:1983(昭和58)年
団体の編成:ブラス(※1)、パーカッション(※2)
※1 編成詳細は以下の通り
金管:Tp、Cort、Mello(F)、Euph(♭B)、Tuba
※2 バッテリーはなし、フロントピットのみ
活動理念:
・多様な音楽活動を通して充実感を味わい、豊かな感受性と表現力を育む
・何事も前向きに取り組む姿勢を育む
・学年を超えた仲間づくりをする
横浜市立小坪小学校は1983(昭和58)年に創立。金管バンドBLUE ROBINSは、学校創立当初に音楽クラブとして活動を開始した。当初は鍵盤ハーモニカなど音楽の授業で使うような楽器からスタートしたが、途中から金管バンドになり、その後マーチングの大会に参加するようになった。
名前を聞いてピンと来た人もいるかもしれないが、横浜市を本拠地に活動する一般団体『YOKOHAMA ROBINS』は小坪小学校OBらが中心となって結成されている。歴史あるクラブで、メンバーの児童の保護者がBLUE ROBINSのOB・OGというご家庭も珍しくないそうだ。
普段はマーチング協会主催大会への参加のほか、港南区や横浜市が主催する地域イベント等に出演する(※)などの活動を行っている。
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況により出演状況は変動的となっており、現在は限定的な参加となっています
小学校団体の多くは児童の演奏技術や体力などを考慮し、高学年を中心とした演奏構成になっている。BLUE ROBINSも以前は3年生以上という制限を設け、原則初心者は演奏をしない方針だった。しかし、現在は2年生から入部できるようになり、2年生や3年生以上の初心者の部員も主要なパートを分担し演奏できるようにしている。
鈴木:「以前私が2年生の担任を務めていたとき、音楽の時間に『大人気アニメの主題歌を演奏しよう!』ということになったんです。難しい曲だしチャレンジ要素も大きかったですが、児童のみんなはとても熱心に取り組んでいて、家でも自主練をするほどでした。そのポテンシャルの高さや、低学年ならではの『恐れを知らないがむしゃらさ』に可能性を感じ、2021(令和3)年度から加入年齢を2年生に引き下げることにしました」
小坪小学校は学年2クラスで全校生徒数が300名という小規模な学校だ。もともと小編成だったが、参加人数は少しでも増やしたいところ。学校内でマーチングバンド活動は認知度が非常に高く、低学年の中にも「マーチングに参加したい!」という児童もいたことが後押しとなったそうだ。
また、楽器経験のある保護者が演奏・演技指導や指揮でも活動を支えているという点も特徴だ。
鈴木:「今年のメンバーは初心者が多く、またコロナによる活動制限もありました。練習を確保するのが難しい中、ここまでできたのは保護者の厚いサポートが大きかったと思います」
Q.全体練習の頻度はどれくらい?
A.原則、週4日の活動
Q.練習場所はどんな場所?
A.屋内と校庭
鈴木:「普段の練習場所は主に学校の体育館と音楽室です。大会が近くなると校庭でも練習を行っています」
Q.現在所属しているメンバーは何名いますか?
A.26名
前述のように2022(令和4)年度の小坪小学校は全校生徒300名のため、だいたいだいたい12人に1人の生徒がBLUE ROBINSのメンバーとして活動しているということになる。
鈴木:「2022年度は2〜4年生の児童が多く、初心者や低学年を中心としたメンバー構成になっています。高学年の児童はコロナ禍での入部の代になるので、入部した部員も少なく、また、その間練習や大会をあまりできなかったため、以前は演奏やドリルに自信を持てない子もいました。しかし、今では頼もしいリーダーとして成長し、下級生を優しく指導しており、なくてはならない存在になっています」
Q.加入に際してオーディションを行っていますか?
A.行わない(未経験も可)
Q.その他、活動に際し必要な条件はありますか?
A.参加は2年生以上
Q.【コロナ1年目】2020年度の活動はどのように行いましたか?
A.大会参加はせず、練習のみ可能な範囲で行った
Q.【コロナ2年目】2021年度の活動はどのように行いましたか?
A.練習を行い、大会にも参加した(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)
Q.【コロナ3年目】2022年度の活動はどのように行う予定ですか?
A.練習を行い、大会にも参加予定(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)
Q.コロナ禍で困っていることは何ですか?
A.人前で演奏演技を披露する機会が減った、またはなくなった(大会を含む)
Q.コロナ禍で活動する意味をどのように考えていますか?
A.鈴木:「児童には一人ひとり様々な個性があります。普段の学校生活では個性をうまく活かしきれずにいる子も、マーチングであれば活かせるというケースを多く見てきました。苦手なことがあっても、『マーチングの練習に参加するためなら頑張れる!』という子もいます。そうやって個性を活かす場としてマーチングは非常に重要だと考えています。マーチング活動を維持し続けることは容易ではありませんし、コロナ禍で一層大変ではありますが、児童の教育活動として必要であると考えています」
関東大会での演奏を実際に観てきたが、鈴木先生から聞いたとおり、BLUE ROBINSには低学年と見てわかる体格の小さな児童が多かった。条件だけで言えば、「低学年が中心」や「小編成」という点は不利だと捉える人も多いだろう。しかし、児童たちは自分たちのテーマや音楽の持つ世界感を精一杯表現し、非常に素晴らしいパフォーマンスを披露した。そして、金賞と全国大会出場推薦という評価を得た。
BLUE ROBINSの子どもたちはマーチングが大好きで、だからこそ全国大会という大きな舞台での挑戦を望んだ。勝ったらすごい・偉いということではなく、純粋な欲求だ(そして、それを支えた周りの大人たちは大変な苦労をされたことと察するに余りある)。
もし22年12月の全国大会を観覧する機会があったら、ぜひ小学生の部を、BLUE ROBINSを見てもらいたい。純粋さ故に胸を打つパフォーマンスに心洗われる気持ちになるだろう。