
2025年11月8日(土)、9日(日)に島原復興アリーナで『第53回マーチングバンド全国大会九州予選・第30回マーチングイン九州2025』が開催された。マーチングナビでは、マーチング活動を取り巻く環境が大きく変動する今こそ地方のマーチングの現状を伝えたいと思い、支部大会取材を行うこととした。今回は日本マーチングバンド協会九州支部に許諾をいただき、大会取材を行った。本記事では大会の様子を写真満載でレポートする。

【大会概要】
場所:島原復興アリーナ(長崎県島原市)
日程:2025年11月8日(土)、9日(日)
主催:日本マーチングバンド協会九州支部
料金:有料 ※表彰式時は全席を無料開放
11月8日(⼟)前後半で入れ替えあり・前半後半ともに共通価格
正⾯指定席 共通3,500円/背⾯⾃由席 大人2,000円(当⽇2,500円)、⼩学⽣券1,000円
11月9日(⽇)一日通して観覧可能
⼀般券(全席自由席) 共通3,000円(当⽇3,500円)/⼩学⽣券1,000円
会場の島原復興アリーナは、多目的複合施設として整備されており、大会ではメインアリーナとサブアリーナが使用された。出演者用バスの駐車場や楽器搬入出口は施設の裏手にあり、距離も近い上に傾斜や段差のないフルフラット設計のため搬入や移動も快適だ。正面入口前の広場では朝から音出しやウォームアップが可能で、参加者にとって非常に良好な環境だと感じた。また、観客にとっても、時間帯によっては各団体のウォームアップなど本番前の様子を間近で観覧することができ、マーチングファンにとっても観戦価値の高い会場である。

出場団体:24団体(九州予選19団体、イン九州5団体)+エキシビション参加2団体、招待演技1団体
九州予選 小学生2団体、高等学校14団体、一般3団体
イン九州 幼保1団体、小学生1団体、中学生2団体、高等学校1団体
【審査について】
大会実施規定に基づき審査が行われる。なお、各審査員の講評はリアルタイムの講評(審査)となり、口述の審査講評を録音は大会終了後に出場団体へデータ配布予定。
全国大会推薦枠:全7枠(小学生1団体/高等学校5団体/一般1団体※中学生の部なし)
審査員:6名(大久保康子先生、香畠譲先生、小林敦先生、高江洲裕之先生、田中義之先生、中村裕治先生。※五十音順)
審判員:2名(片山雄詞先生、福田寿代先生)

大会開催にあたり、日本マーチングバンド協会九州支部初代理事長であり、熊本県マーチングバンド協会の名誉会長を務める森義臣(もり・よしおみ)氏に、九州のマーチングについてお話を伺った。
――長年マーチングに携わってきた中で、自身が大きく感じた変化(環境や内容、関わり方など)は?
森:当初はマーチングを軍隊訓練と抗議してくる市民や、マーチングコスチュームを煌びやか過ぎるとか着れない一般生徒との差別だと言って活動中止を訴える教師などの批判を受け、説得するのが大変でした。しかし、普及・発展に伴い「マーチング」というワードが一般化することにより、そうした批判は自然消滅しました。
――九州でマーチングを普及させるために苦労されたこと、工夫されたことは?
森:1970年代はビデオテープやスマホなどがなく、「マーチングって何?」という先生達に説明する手段は8ミリフィルムか実際に体験するしかありませんでした。2~4人ほどの生徒を車に同乗させて会場へ連れて行き、実際に足踏み演奏をさせました。地元の放送局(テレビ熊本)がマーチング講習会を開催してくれたことが一番助かりました。講師招聘経費、講習会参加生徒と教師の交通費、弁当代、会場使用料などすべてテレビ熊本が負担してくれました。そしてフェスティバルを教育的番組として取り上げ、放映して現在52回を迎える長寿番組となっています。
――マーチングが持つ教育的意義とは?
森:マーチングは部員全体、つまり他の人の動きと演奏を協調しなければ成立しません。そこには「我慢をする力」「他人の気持ちを察する力」「自分が他に迷惑をかけない力」がなければなりません。しかし、そのことがスパルタ練習では非教育的です。厳しい練習の中でもお互い励まし、助け合い一歩一歩前進する責任感と達成感、協力する喜び、楽しさ、動きと演奏の美しさなどを育てなければなりません。一人一人がマーチングを身体と心で感じ取る教育的意義の上に協調性・責任感など人間形成を培っていきます。
――マーチングや吹奏楽の活動を通して、これからの世代の人達に伝えていきたいことは?
森:現在、日本のマーチングは世界でもトップクラスの力を持っています。それは「マーチングを愛好する子どもたちと指導者」によって作り上げられた成果です。マーチングは国際的に共通の文化です。子どもたちが大人になってマーチングの魅力を次世代に伝えるだけでなく、外国人とチームを組んで発表することも可能です。コンテストで実力をアップしながら、その実力をフェスティバルで国際交流・次世代交流を行いマーチングを醸成させてほしいです。

大会一日目は高等学校の部(全国大会予選)が行われ、14団体が出場した。全国大会への推薦5枠を懸けた大一番ながら、会場には緊張感の中にも互いを認め合う温かな雰囲気が漂い、まさに「切磋琢磨」という言葉がふさわしい大会となった。なお、出場した14団体のうち、専修大学熊本玉名高等学校 VENTURESを除く13団体が木管を含む吹奏楽編成だった。

大会はほぼ予定通りに進行。前半7団体の演奏を終えた時点で客席の入れ替えが行われ、後半7団体の演奏後には、地元・長崎県からエキシビジョン2団体と招待1団体が演技を披露した。いずれも非常に素晴らしいパフォーマンスで、中でも招待演技の長崎日本大学高等学校中学校(以降、長崎日大)の『YMCA』の演奏は客席を大いに盛り上げていた。ちなみに長崎日大は大会一日目の会場補助員としても参加しており、この日は二刀流の活躍だった。
閉会式には全団体が参加し、全員が会場で結果を聞いた。努力が実を結び涙を流す者、あと一歩届かず悔しさをにじませる者。悲喜こもごもの結果発表となった。

大会二日目は全国大会予選とマーチングイン九州2025が行われた。全国大会予選には小学生の部2団体、一般の部3団体が出場。マーチングイン九州には、幼保の部1団体、小学生の部1団体、中学生の部2団体が出場した。なお、この日の会場補助員は、大会一日目の全国大会予選で気持ちの込もったパフォーマンスを披露した長崎県立長崎工業高等学校の生徒たちが務めていた。

この日は客席の入れ替えがなく、スムーズに進行。マーチングイン九州の出場団体はいずれも個性豊かで、創意と工夫に満ちたショーを披露した。全国大会予選の小学生の部と一般の部では、それぞれ全国推薦1枠を懸けた熱演が繰り広げられ、どの団体も高い完成度と表現力を見せた。「ここから一つだけ選ぶなんてもったいない!」と思わせるほどのレベルの高さだった。
二日目の閉会式も、前日と同様に全団体参加形式で実施され、喜びと悔しさ、さまざまな思いが交錯する大会の締めくくりとなった。

今回の取材を通して、九州支部のレベルの高さを改めて実感した。支部大会では団体間に技量差が見られることもあるが、九州支部は幼保の部から一般の部まで、すべての参加団体が高い完成度を誇っており、フロアに立つメンバー一人ひとりが自信と誇りをもって演じていたことが印象的だった。

また、どの団体も音に気持ちが乗っており、その想いが客席にまでしっかりと伝わってきた。ショーは個性豊かで、プログラム構成にも工夫が凝らされており、観ていて純粋に楽しく、次はどんな展開が待っているのかと胸が高鳴った。応援の熱量も非常に高く、保護者や関係者の真剣なまなざしから、団体を支える人々の情熱がひしひしと伝わってきた。

九州は、熱い気持ちをもってマーチングに取り組む人が多い地域であると感じた。高いレベルを維持する背景には、決して妥協を許さない真摯な姿勢がある。閉会式を全員参加形式で行い、出演者同士が互いのショーを観られる仕組みも素晴らしい取り組みであると思う。
今回の取材では、全国大会だけでなく、支部大会を取材する意義と価値を改めて感じることができた。これからも九州支部が日本のマーチング界を大いに盛り上げていってほしいと心から願っている。