「知ってるようで知らないマーチングバンド、ドラムコーの現状」を団体関係者に直接インタビューし、正しい情報を広く詳しく発信する企画、【マーチングバンド解体新書】シリーズ。今回は神奈川県で活動する『綾北”Mercury winds”』について取り上げたい。
※本記事に使用している写真はコロナ禍以前に撮影したものも含まれています。また、活動状況などは近年の平均値をご回答いただいており、社会情勢や感染拡大状況によって変動することをご理解ください。
団体正式名称:綾北”Mercury winds”(リョウホク ”マーキュリーウィンズ”)
団体所在地:神奈川県綾瀬市
創設年:2000年
団体の編成:ブラス、バッテリー、フロントピット、カラーガード
創設目的:「マーチング活動を行いたい」という理由から、綾北中学校の吹奏楽部がマーチングバンド部として始動しました。
活動理念:『感謝の気持ちを忘れずに』をモットーにしています。活動の全ては、多くの方の支えがあってこそだと思っています。
今回は、綾北”Mercury winds”(以下、綾北)のスタッフである小野由香子(おの・ゆかこ)さんにお話を伺った。
小野:「綾北中学校には元から吹奏楽部はありましたが、『マーチングバンドをやりたい!』ということで方針転換して今の形態になりました。現形態での活動は、2021年の今年で22年目になります。メンバーは綾北中学校の生徒のほか、小学生など外部の生徒も参加しています。そのため、学校部活動として活動する場合は『綾北中学校』、市のイベントや大会参加時には『綾北”Mercury winds”』と名称が変わるんです」
綾北は全国大会の常連の強豪団体だ。日頃さぞ熱心に練習されているのだろうと思いきや、意外にも地域の子ども会のようなレクリエーションを積極的に行っているようだ。
小野:「練習も全力、遊びも全力。練習日と運動会、水遊び、隠し芸大会など保護者も参加して、全力で楽しみます! コロナ禍以前は毎年夏に合宿を行っていて、練習だけでなく運動会を行ったりもしていました。保護者参加の『かくし芸大会』をやったり、メンバーのお父さんたち(通称:おやじ会)が縁日を開催してくれたりと、家族総出で活動に参加しているような感じです。コロナ禍で心を病む子どもが増えてきているように見受けられますが、自分の想いを伝える手段としてマーチングは最適だと思うんです。でもいきなりは難しいので、自己表現の準備段階としてレクリエーションにも全力で取り組んでもらうんですよ」
ちなみに、綾北名物の立派なプロップは、前述の『おやじ会』のみなさんによる力作。衣装とフラッグはお母さんたち制作だ。レクリエーションを通じてメンバー同士の親睦を深めたり、保護者同士が協力し合ったりしたりと、絆を強めているようだ。
1.練習について
Q.全体練習の頻度はどれくらい?
A.週2回(土日両方、平日+土日どちらかなど)
※綾北中学校の生徒は平日も学校内で練習を行っており、外部メンバーが参加するフルメンバーでの全体練習は週2回程度行っているとのこと
Q.練習場所はどんな場所?
A.屋外
2.メンバーについて
Q.現在所属しているメンバーは何名いますか?
A.61~70名
Q.メンバーの平均年齢はどれくらい?
A.13~15歳
Q.新規加入は例年何名くらいいますか?
A.10~20名
Q.退団者(シーズン途中を含む)は例年何名くらいいますか?
A.10~20名
Q.所属メンバーの居住地について教えて下さい
A.団体所在地「内」の都道府県から通っている
3.実際に加入するためには
Q.年齢制限はありますか?
A.小学生から中学3年生まで
Q.加入に際しオーディションを行っていますか?
A.行わない(未経験も可)
Q.一年間でメンバーが団体に支払う費用は概算でどれくらい?
A.~10万円
活動費用について、月謝(月額5,000円)の他に衣装代や合宿・遠征時に費用が発生することがあるが、これらは編成人数やショーの内容、大会参加状況によって変動するため、総額は年度ごとに異なるそうだ。なお、メンバーは全員スポーツ保険に加入しており、保険費用は徴収した費用から賄われている。
Q.その他、活動に際し必要な条件はありますか?
A.特になし
小野:「綾北には小学生から中学3年生までが在籍しています。2021年のショーメンバーは65名で、ピットは11人中8人が小学生です。プレーヤーとしてショーには参加しないけれど、プロップを運んだりする『お手伝いメンバー』にも小学生が参加しています。メンバー同士は仲が良いですね。年が上の子ほど積極的に働いてくれます」
マーチングバンドが盛んな地域のため、メンバーの中には小学校でのマーチングバンド経験者が加入したり、神奈川県立湘南台高校、茨城県立大洗高校、沖縄県立西原高校など全国のマーチングバンド強豪校へ進学するメンバーもいるとのこと。
小野:「経験者もいますが、初心者も歓迎しています。小学生の方があまり考え込まず感覚で学んで成長するので、初心者であってもそこまで苦労している感覚はないですね。練習については、小学生がいるからといって小学生に合わせた練習はしていません」
また、未経験OKなど加入に際し必要な条件はないが、練習以外でのルールはそれなりに厳しく、敬語などの言葉遣いをはじめとした生活態度についてや学業に関しては、大人たちの目が行き届いている印象だ。学校の成績は全員提出するほか、夏休みの宿題が終わっていなければ夏の合宿は参加不可など、学業との両立も図っている。現在は最長でも半日しか練習時間が確保できない状況だが、以前一日練習が行えていた時も、半日は宿題をやる時間に割り当てていたそうだ。
ちなみに綾北はショーの制作が比較的早く、年度の切り替え時(3~4月)には翌年のショー曲が届くとのこと。3月の定期演奏会が終わり次第ショー曲に取り掛かり(新入生が入る前に中2と中3は曲ができるようになっており、新入生加入後も対応に時間を使えるようになっている)例年夏休み前にはフルショーのランスルーが通るそうだ。そこからはひたすらクリーニングを行い、大会に向けてクオリティを上げて調整していく。
小野:「11月の関東大会時には次年度の部長・副部長などの役職を決定し、12月末の『ミュージックフェスタ in 湘南』終了時に中3が受験のため一時離脱するため、新役職が運営を行います。毎年交代が非常にスムーズに行われていることや、スタッフにも綾北の卒業生が多数いることで早め進行が成り立っていると思います。彼らは年間スケジュールを熟知しているのでショーの制作進行はもちろん、技術的指導からメンバーのメンタルケアまでチームのために尽力してくれています」
Q.2020年はどのような活動を行いましたか?
A.練習を行い、大会にも参加した(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)
Q.2021年度の活動はどのように行う予定ですか?
A.練習を行い、大会にも参加予定(オンライン参加や、任意のメンバーのみで行うアンサンブル等も含む)
Q.2020年度の大会参加状況について教えて下さい
A.予定どおり出場した
Q.2021年度の大会参加予定について教えて下さい
A.可能な限り参加予定
Q.コロナ禍で困っていることは何ですか?
A.
・所属メンバーの減少
・人前で演奏演技を披露する機会が減った、またはなくなった
・メンバーのモチベーション維持
Q.コロナ禍で活動する意味をどのように考えていますか?
A.今後、このような状況の中で生活していく世の中になっていくと思います。コロナだから、マーチングを諦めるという学生達が増えてきています。大好きなマーチングを諦めなくてはいけないのか? 大好きなマーチングだからこそ、諦めちゃいけない。そのために、今の状況を踏まえ対策をしながらでも活動する。諦めない、強い気持ちを持って前に進むために、活動することに意味があると考えています。
2020年度は学校行事も地域のイベントもなくなり、目標としていた全国大会もビデオ収録となってしまった。集まって練習が行えない期間は、動画を撮ってリーダーにチェックしてもらうなど工夫して個人で課題に取り組み、例年通りの早め進行のためショーの組み立て自体にはそこまで苦労しなかったそうだが、メンバーは「誰に向かってパフォーマンスすればいいのか?」という悩みを抱えた。
モチベーション維持に非常に苦労した期間、最上級生の中3メンバーが積極的に下級生のメンタルケアに回ったという。そんな子どもたちの姿を見て、保護者・スタッフ一同は奮起したそうだ。
小野:「今のこの状況だからといって、私達は半端なものは作りません。大人が全力で子どもたちの活動の場を守り、綾北のイメージやクオリティは下げずにやり遂げてみせます! ショーを見る人たちみんなの期待に答えたいですし、やっている人が熱くならないと、熱量は伝わりませんよね。私達はこれからも、何事にも全力で取り組む『綾北らしさ』を大切に活動していきたいと考えています」
取材時の7月中旬にはすでにランスルーが終了し、今年も大会に向けての準備は着々と進められていた。小野さんからは「みなさん御存知の通り、私達『ド派手大好き』ですから(笑)」という言葉もあり、きっと期待を裏切らないだろう。今年の綾北はどんな熱いショーを見せてくれるのだろうか? 大会シーズンが待ち遠しい限りだ。
「綾北”Mercury winds”」
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