マーチングファンであれば知らない人はいない、神奈川県立湘南台高等学校吹奏楽部「White Shooting Stars」。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、練習も発表の場も大幅に削減されてしまった。そんな中でも、12月に開催予定のJapan Cupに向けて部員たちは結束し前を向き続ける。そのメンタリティはどうやって育まれてきたのか? そこには創部から受け継がれる精神があった。
※取材日は2020年11月下旬
練習の合間、高校最後の一年をコロナ禍で過ごす高校三年生たちに話を伺った。
トランペットパートでブラスのセクションリーダーを務める茂呂佑(もろ・ゆう)くんは、小5でトランペットを始め、マーチングバンド部での活動を志して湘南台高校へ入学。今年は思うように練習することができず歯痒い思いをしたのでは? と聞いてみた。
「まずは家でできるブレスやフィンガリングのトレーニング、マウスピースでの練習などをやりました。譜面の読みあわせができなかったので、一人一人に指を動かしながら曲を歌ってもらい、録音したものを組み合わせて確認したりなどしました。トランペットパートだけで言えば、自粛前よりも音質に暖かみが生まれて音色も揃って、個人練習が成果に現れていたと思います」と答えてくれた。
「ですが、実際みんなで揃って吹いたときに『合奏の感覚』が鈍っていたことは否めませんでした。音の粒やテンポ感などのマーチングらしい演奏表現を取り戻すのは難しかったです。今年の曲は全体的に例年より難易度が高いんです。だからこそ、『今までとは違うサウンドやテクニックを、この状況下とこの短期間でここまで仕上げたぞ!』と、自信を持って演奏できたらいいなと思っています」と、意気込みを聞かせてくれた。
カラーガードの山口莉央(やまぐち・りお)さんは、中学校ではマーチングバンドでクラリネットだったが、湘南台に入ってカラーガードを始めたという。
「今年はカラーガードの1年生メンバーが確定したのが8月で、そこからベーシックを始めて、振り付けという流れだったので例年よりかなり遅いスタートでした。いつもより時間がない分、どんな練習をやっていくか3年生内で決めてから、同じモチベーションで1・2年生も取り組めるようみんなで話し合いを重ねてきました」
「1年生が朝練などの自主練に参加しやすい環境づくりを心掛けたり、2・3年生は振り付けなど『できて当然』の状態で練習に参加することで、練習中は1年生のレベルアップに注力できたと思います!」と、真剣な表情で語った。
どの三年生の発言も、自分たちはこの状況下でもやるべきことをやってきたという自信に満ちている。これについて総監督の羽場弘之(はば・ひろゆき)先生にお話を伺うと、マーチングバンドの活動当初から受け継がれてきた精神が関係しているようだった。
「湘南台高校吹奏楽部は1998年から現在の活動形式に完全移行しました。その当時の部員には、とにかく毎日『なぜこのような活動をするのか、部活動の意義について』を噛んで含んで聞かせるように語り続けました。また、短い期間で技術を上げたり、大会で結果を出すためには何をしなくてはいけないかを徹底的に叩き込んだんです」
「『動機付け』ですよね。まず動機付けを最初にきちんとして、『このチームは何を目指すのか』を生徒に伝えて、その目標に向かうためには『どういう手段を取らなくてはいけないか』ということを伝えておけば、高校生くらいであればいくらでも自分たちでやっていけると思います」
また、コロナ禍における活動についてはこのように語った。
「生徒たちは『今何をしなくてはいけないか、何をすればいいか』を自分たちで考えて行動したと思います。これは日々の活動の蓄積が影響していますよね。コロナ禍においては全国の学校が同じような状況下で活動をしているわけですから、その団体の持つ素の力が試された状況なのではないかと思います。その中で私たちの活動がどこまで機能的・合理的・効果的に働いたかは現時点ではまだ判断できませんが……ただ、生徒たち自身は自分たちがやってきたことを信じてきたというか、踏まえた展開はしてきたと思います」
創部から蓄積されてきた精神的資産は、今も脈々と受け継がれている。だからこそ、このような状況下において、心折れるどころか例年よりも難易度を上げる気概が生まれるのではないだろうか。これからの湘南台の活動がより一層楽しみである。(了)
神奈川県立湘南台高等学校吹奏楽部「White Shooting Stars」
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