【マーチングバンド解体新書】シンプルイズベスト!演奏と動きを極めて挑む「中央区立日本橋中学校吹奏楽部」

「知ってるようで知らないマーチングバンド、ドラムコーの現状」を団体関係者に直接インタビューし、正しい情報を広く詳しく発信する【マーチングバンド解体新書】シリーズ。

今回は『中央区立日本橋中学校吹奏楽部』を紹介したい。全国大会常連の強豪として知られるが、公立中学校の部活動ということからウェブサイトやSNSアカウントがなく、インターネット上で情報発信が行われていない団体だ。東京のど真ん中でどのような活動を行っているのだろうか? 部の様子や活動状況について、顧問の上野和久(うえの・かずひさ)先生からお話を伺った。

>マーチングバンド解体新書 過去記事はこちら

 

中央区立日本橋中学校吹奏楽部について

団体正式名称:中央区立日本橋中学校吹奏楽部(チュウオウクリツニホンバシチュウガッコウスイソウガクブ)
団体所在地:東京都中央区
創設年:吹奏楽部の創設年は不明、マーチングバンドとしての活動は1991(平成3)年以降
団体の編成:ブラス(※)、パーカッション
※編成詳細は以下の通り

金管:Tp、Tb、Hr(座奏はフレンチホルン、マーチングはマーチングホルン)Euph、Tuba
木管:Fl、Picc、Cl、Sax(Sop、Alto、Tenor、Bariton)
活動理念:「心はひとつ」

中央区立日本橋中学校は、東京都中央区東日本橋にある公立中学校だ。最寄り駅は都営地下鉄浅草線の東日本橋駅で、校舎の向かいに隅田川が流れ、近くに首都高速の両国ジャンクションがあるという、東京のど真ん中に所在している。2024年度の全校生徒は380名程度で、全国大会常連校として知られる吹奏楽部のほか、近年はダブルダッチ部が世界大会に出場するなどの活躍を見せている。

吹奏楽部の発足当時は座奏のみだったが、1991(平成3)年9月29日に行われた「マーチングジャンボリー フェスティバルの部」に出場したことからマーチングへの取り組みが始まった。2019(令和元)年度は「第47回マーチングバンド全国大会(日本マーチングバンド協会主催)」で15年連続金賞受賞、通算10回の編成別最優秀賞を受賞するほか、同年度の「第67回全日本吹奏楽コンクール(全日本吹奏楽連盟主催)」へ東京都代表として初出場を果たすなど、マーチングのみならず座奏でも結果を残している。

 

他の団体にはない「日本橋中ならでは」なエピソード

日本橋中のショーはとにかくシンプルだ。カラーガードなし、プロップなど大道具も一切使用しない。近年のマーチングバンドは総合芸術としての側面が強くなり、舞台装置のような大掛かりなプロップを使用する団体も増えてきたが、日本橋中はあくまで「演奏と動き」のみで挑み続けることにこだわりを持っている。ともすれば不利にも働く条件を貫くのはなぜだろうか。

上野:日本橋のマーチングは「演奏の上手さ」と「洗練された動き」の二本柱で成り立っています。メンバーが「マーチングは動くコンサートだ」ということを強く意識し、この二つを徹底的に磨いていくスタイルで挑み続けています。私が赴任する以前からこのスタイルを貫いていましたし、現役生も先輩方の姿に憧れて入ってきているのでそのスタイルを大切にしたいです。

 

関係者が答えます!活動状況Q&A

1.練習について

Q.全体練習の頻度はどれくらい?
A.練習は平日放課後+土日(隔週で休みを設けている)

Q.練習場所はどんな場所?
A.屋内、校庭

上野:演奏は校舎内で練習することが多いです。ドリルの練習では校庭を使用していて、広さも足りているのですが、他の部活動との兼ね合いから放課後に占有使用できるのは週に一度のみです。

 

2.メンバーについて

Q.所属メンバーの居住地について
A.団体所在地「内」の都道府県から通っているメンバーが多い

Q.現在所属しているメンバーは何名いますか?
A.38名(2024年度)

 

3.実際に加入するためには

Q.加入に際してオーディションを行っていますか?
A.行わない(未経験も可)

上野:入部してくる生徒の約半数が吹奏楽未経験者です。特にマーチングの経験者というのは滅多におりません。初心者中心のバンドですが、吹奏楽コンクールとマーチング協会の大会の両方に出場しているので、計画立てて練習を進めるように心がけています。

Q.一年間でメンバーが団体に支払う費用は概算でどれくらい?
A.~10万円

日本橋中の部費は年額2万4千円(月2千円)、衣装は有償貸与(メンテナンス代3年総額1万円)、楽器は無償貸与(学校備品)で、スティックやマレットは個人購入も可となっている。また、マーチングシューズは学校備品とストックがあり、サイズや状態を見て足りない分を補填するため、年度によってその額を徴収することがある。そのほか、部のジャージとブルゾン(上下で2万円)、Tシャツ(1千円〜1千5百円程度)は個人購入となっている。

Q.その他、活動に際し必要な条件はありますか?
A.日本橋中学校の生徒として、学校生活をきちんとしていること

 

日頃の活動や今後について聞いてみました

Q.普段、どのような本番に参加していますか?
A.
・日本マーチングバンド協会(M協)主催大会
・全日本吹奏楽連盟(吹連)主催大会
・地域イベント(地元のお祭りなど)
・演奏会などの自主公演

上野:マーチングの大会と吹奏楽コンクールだけでなく、アンサンブルコンテストや地域行事や施設訪問なども行っています。座奏とマーチングをやるのは苦労も多く大変ですが、座奏で磨いた演奏をマーチングで活かしたりと相互に良い影響もあるので両立させていきたいです。

Q.将来的に挑戦したい(または現在企画している)ものがあれば教えてください
A.
・マーチングバンド全国大会(M協主催)への出場
・マーチングステージ全国大会(M協主催)への出場
・活動拠点の地域で行われるご当地イベント(お祭りなど)への参加
・テーマパークやスポーツイベントなどへの出演
・自主事業(コンサートやイベントなど自ら企画し実施するもの)の開催

上野:公立中学校であることから団体ウェブサイトやSNSアカウントなどがなく、活動実態を伝えたり、演奏オファーを受けたりすることが難しいのですが、実際にはもっと活動の場を広げていければと思っています。スポーツイベントなどは、日頃吹奏楽の世界にいてなかなか触れる機会が少ないので、チャンスがあればぜひ挑戦してみたいですね。

Q.いま一番困っていることは何ですか
A.活動場所や活動時間など、学校の状況が様々変化する中で安定した部活動運営をすること

日本橋中学校は校舎改築の影響で、2025(令和7)年度から仮校舎へ移転することとなっており、現在ドリルの練習を行っているグラウンドが使用できなくなってしまう。都心なので代替の練習施設も非常に少なく、今後どこでマーチングの練習を行うかが問題となっている。また、コロナ禍を経て部活動の人数が減り、経験者も入ってこなくなったとのこと。歴史と実績のある部だけに、結果を求められる中でどのように活動を行っていくかを問われている。

東京のど真ん中にある公立中学校で、そもそも全校生徒も多くない上に、ほぼ全員がマーチング初心者。練習環境もかなり限られた中で活動を続けている。日本橋中の置かれている状況はかなり厳しいものだが、それでも敢えて自分たちのスタイルを貫いて結果を残し続けている姿に勇気をもらっている個人や団体もいることだろう。

やや過熱気味なマーチング総合芸術化の波の中で、トレンドに左右されず独立独歩のスタイルを続ける団体が評価を得られているということは、業界にとっても非常に重要なことと考えられる。本当の意味での「多様性」のためにも、全国の小編成団体やカラーガード不在団体のためにも、日本橋中にはこれからも今のスタイルで邁進していってもらいたいものだ。

keyboard_arrow_up

Pearl